ゆるゆるOblivion
Oblivion妄想RP日記です。渋親父率高いので、加齢臭漂ってます
一方的な思い
~死者への祈り~ 4:「「一方的な思い」」
Miaはimperial cityのマリア・エレーナの店を訪れていた。

ちらほらと酒を飲んでいる客がいるくらいで、店内は普段よりガランとしていた。
雨の中を歩いてきたせいでマントや鎧からは水が滴り落ちていたが、彼女は気にも留めずにそのまま席に座った。
暗い顔で俯いているその姿は、まるでその場に幽霊が佇んでるかのように周りの客の目には映ったかもしれない。
「いらっしゃい」

マリア・エレーナが水を運んできた。
すぐMiaの異変に気がつき、心配そうに声をかける。
「・・・大丈夫?」
Miaがゆっくりと顔を上げた。
その瞳は潤んでいた。
本人は我慢しているようだが、今にも溢れ出しそうなくらい涙がたまっていた。
すがるような目付きでマリア・エレーナを見つめている。
そして、ゴシゴシと目元をこすると、ちょっと笑いながら口を開いた。
「・・・えへへ、ちょっと色々とね。大丈夫だよ、大したこと無いから」
Miaは無理に笑ったので、きっと変な顔をしていただろう。
それでも、マリア・エレーナには心配をかけたくないので、悟られないようにごまかしたのだ。
彼女は務めていつもと同じように注文した。
「えっとね、リキュールとチーズにしようかな。あと、サラダも」
「わかったわ」
マリア・エレーナにはMiaが虚勢を張って無理に笑顔を作っていることが手に取るようにわかっていた。
こんなに落ち込んでいる彼女も珍しい。
彼女の身に起こった事を考えながらも、とりあえず注文の品物を取りに行った。

マリア・エレーナは他の客を捌きながら、Miaの様子を逐一伺っていた。
彼女はずっとグラスを持ったまま、一点を見続けている。

丁度、彼女の席はランプの影になっているので表情まではわからない。
が、いつもと空気感が違うことだけは確かだ。
* * * * * * * * *
他の客が皆帰ってしまい、店仕舞いの時間になっても、Miaはずっとそこにいた。
食べ物には一切手をつけず、リキュールも大して減っていない。
ずっと彼女は何かに憑かれたように宙を凝視し、呼吸すらしてないように見えた。
店主がマリア・エレーナに後の事を任せて自宅へ戻った。
ようやく自由になった彼女は、静かにMiaに近づく。
「閉店よ。帰らなくてもいいの・・・?」
Miaがゆっくりとこちらを向いた。
周りに誰もいないことや、彼女達が片づけをしていたことには全く気付いてなかったようだ。
「・・・今日は、ここに泊まらせてもらってもいいかな・・・?」
「ええ、いいわよ。一部屋空いてるからそこを使うといいわ」
Miaはずっと持っていたグラスをようやくテーブルの上に置いた。
握力がおかしくなってるようだった。
手が痛くて、指がうまく曲がらない。
「・・・ありがとう・・・」
立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。
足だけでなく、全身に力が入らなかった。
「・・・あれ、立てない・・・、そんなに飲んだのかなぁ・・・」
その様子を見て、いたたまれなくなったマリア・エレーナが静かに口を開いた。
「何があったの・・・?」
「え?別に、なにも・・・」
Miaは言葉を濁した。
「隠さなくてもいいわ。辛いことがあるなら、誰かに話した方が気が楽になるわよ?」
「今、部屋の用意をしてきてあげるから、少し待っててね」
マリア・エレーナはテーブルの上の物を片付けながら、彼女にそう言った。
カウンターに向かって歩き出すと、後ろから声がかかった。
「待って、マリア・エレーナ・・・・」
Miaは彼女を呼び止めた。
そして、話し辛そうにゆっくりと、落ち込んだ口調で彼女に今日あったことを話した。
マリア・エレーナは椅子をMiaの近くに寄せ、そこへ座って話を静かに聴いてくれた。

「・・・おっさんなんか大嫌い・・・」
最後にそう言うと、Miaはまた黙りこんでしまった。
マリア・エレーナは相槌を打ちながら彼女の様子をずっと観察していた。
刺激しないように、優しく、そっと、彼女に語り掛ける。
「・・・そうね、あの人はあなたの言う通り、他人に対して厳しい所があるのよね・・・。
そして、同じように、いえ、きっとそれ以上に自分にも厳しいの・・・」
マリア・エレーナはAzazelのことをよく知っていた。
彼の欠点のこともよく知っているのだ。
「彼が特にあなたに対して厳しいというのは、間違いじゃないと思う。どうしてそうなのかしら?」
「わからない・・・」
「・・・私のことが嫌いだから?ウザイのかな・・・?」
マリア・エレーナは首を横に振った。
「むしろ好きだと思う」
今の言葉にMiaは目を丸くした。
ありえないこと過ぎて、思わず笑いが込み上げる。
「ないない、ないって。そんなわけないじゃん。だって、あんなにキッツいことばかり言うんだよ?
ありえないって」
「嫌いなあなたを居候させるの?矛盾してない?」
「それはただ、私のことを哀れだと思って、そうしてくれただけよ。」
「本当にそれだけ?」
「・・・そうなんじゃないの・・・?わからないよ、彼に聞いたことないし・・・」
彼の真意はわからない。
よく考えると、無茶な願いをよく承知してくれたなと、今になって思う。
Miaの頭は混乱してきていた。

「彼はね、興味の無い人には厳しいことを言ったりしないのよ。だから、私にはいつも優しかった」
Miaが驚いたように彼女を見つめた。
マリア・エレーナはちょっとせつなそうに微笑んでいる。
「Miaに厳しいのは、悪意があるわけじゃなくて、もっとあなたを成長させたいと思ってるからなのよ・・・」
「言われてる本人は、そんなことわからないものね。どうせなら、もっと優しい言葉で言ってくれてもいいのにって思うのが普通よ」
Miaはうんうんと頷いている。
「そこが彼の子供っぽい部分ね。」
「あの人、年を重ねてはいるけど、そういう所はどうにもならないようよ。自覚はしているみたい。
だから、あれはもう仕様が無いことだと思ってあきらめるか、無視するしかないのよ。」
「もしくは傷つく度に、その都度、彼に意思表示することね」
マリア・エレーナはMiaの手に、そっと手のひらを重ねた。
「あなたは自分の過ちをわかっている。だからもう、あなたはその過ちを二度と繰り返さない。
でしょ?」
「ええ」
「なら、そのことをちゃんと彼に伝えましょう。そして、あなたが感じた不快感を彼にしっかり伝えなさい。」
「一応あの人も大人だから、冷静に話せばわかってくれるはずよ」
Miaはちょっと苦笑した。
マリア・エレーナがおっさんのことを”一応大人だから”と言ったことがおかしかったのだ。
彼のことをこんな風に語る人を見るのはとても新鮮だった。
こんな風に、対等に彼のことを話せるということは、余程親しい間柄なのだろう。
彼との関係をちょっと聞きたい気もするけど、今はやめておこう、と思った。

「・・・Miaは、彼の娘さんの話を聞いたことがある・・・?」
「あるよ。駆け落ちして行方不明で、一生懸命探してるって・・・」
「たぶん、それも関係してるんじゃないかしら」
「どういうこと?」
「Miaが自分の娘と重なって見えてるのかも」
「えっ」
Miaは驚いていた。
そんなことがありえるのだろうか?
「確か、あなたより年上の筈だけど・・・」
マリア・エレーナは昔Azazelから聞いた話を思い出そうとしていた。
「活発で、自由奔放な娘さんだったそうよ。ただ、彼の言うことはあまり聞かなかったようだけど。
だから彼は彼女に厳しく接していたみたい。それが仇となって、父娘の関係がこじれて・・・・こんなことに・・・。
とても愛していたから、その時のショックは言葉で言い表せないって言ってたわ。
そして・・・・
とても後悔しているとも・・・」
マリア・エレーナは言葉を区切った。
Miaがいてもたってもいられなくなり、口を開く。
「だったら、なおさら私に対して厳しい言葉をかけるのは逆効果だと思わないのかしら??」
「だから、そこが彼の欠点なのよ。わかっていても、どうすることもできないのよ。
同じ過ちを繰り返すかもしれないのに、彼にはどうしていいのか方法がわからない」
「・・・・」
Miaはなんとなくわかったような気がした。
Azazelはとてつもなく不器用なのだ。
おそらく、今頃彼は自分がMiaに対してついた態度を後悔していることだろう。
もっと違う言い方で話せば良かったと、思っているに違いない。
そして、家に帰ってこない彼女を心配している筈だ。
そう考えると、Miaはちょっと彼を許す気になれた。
元々は自分の単独行動が招いたことだ。
本当は逆切れなんてしたくなかった。
ただ、いつも思うのだが、おっさんが相手だと、どうにも自分に甘くなってしまい、制御が取れなくなってしまうのだ。
自分は彼に頼っているのだなということを、後になって思い知らされる。痛いほどに。
「・・・ありがとうマリア・エレーナ、もう、大丈夫よ・・・」
Miaの気持ちに整理がついた。
今まで暗く淀んだ闇のようなものしか周りには見えなかったが、今は視界もよくなり、いつもと同じ景色が見えるようになった。
彼女の顔に生気が戻ってきた。
「良かった」
マリア・エレーナにもそれがわかり、安堵しながら微笑んでいた。
Miaはちょっとはにかみながら、彼女の手を握り、握手するように軽く上下させた。
「本当にありがとう」
「力になれて良かったわ。」
「お腹空かない?あなた何も食べてないでしょ?」
そう言って彼女は席を立った。
カウンターに向かって歩いて行くので、Miaもそれについていった。

残り物を探しているマリア・エレーナを眺めながら、Miaはカウンター席に座った。
「さっきのチーズでいいよ。そんなにお腹空いてないし」
「じゃあ、サンドイッチ作ってあげるわ。ちょっと待ってね」
マリア・エレーナはいつも甲斐甲斐しく彼女の面倒を見てくれる。
Miaはその厚意にいつも甘えていた。
甘えてもいい自分が、ちょっと嬉しかった。
料理を作ってもらってる最中、Miaはポロっと思っていたことを口に出してしまった。
「・・・・マリア・エレーナは、おっさんのことに詳しいよね。そんなに仲良いの?」
「付き合いが長いからよ」
「おっさんもそんな風なこと言ってたなぁ・・・・」
マリア・エレーナはバケットを同じ厚さに切っている所だった。
「・・・・本当は、それだけじゃないって言いたい所だけど・・・・」
意味ありげにそう言った。
Miaがその言葉の意味を考えていると、彼女はバケットを切る手を止め、顔を上げた。

「あの人の中に、私の居場所はなかったの」
Miaがまたまた驚いたようにマリア・エレーナを見つめた。
彼女のおっさんに対する言動には、さっきから驚かされてばかりだ。
「ふふっ、驚いた?・・・そう、Miaが思ってる通りよ」
「えっ、そうなの!?本当に!?」
信じられなかった。
こんなに綺麗で誰からも愛される女性が、まさかあの偏屈で人相の悪いおっさんに思いを寄せていたとは。
もっといい男がよりどりみどりでいた筈なのに、どうして、よりによってあんなおっさんを選んでしまったのだろう。
Miaにはさっぱりわからなかった。
「やだ、そんなに驚かないでよ。結構いい人なのよ?」
「ううん、私の前ではそうだっただけなのかも。だってあの人、結局私には心を開いてくれなかったものね・・・」
「付き合ってたの?」
マリア・エレーナは首を横に振って否定した。
「・・・肌を合わせたことは何度かあったけど、結局それだけだった。引き止めようとしたけど、無理だったわ」
「・・・・どうして・・・?こんなに美人で素敵なのに、なんでおっさんは??」
なんと、おっさんはこんなに美しい女性を振っていたらしい。
まったくもって、信じられないことをする男だ。
「Miaは知ってる?あの人、毎月同じ日にある場所へ必ず赴いてるの。そう、亡くなった奥さんのお墓へ・・・」
Miaは知らなかった。
彼の行動など気に留めたことも無いので、何をしているかなど知る筈もないのだ。
ましてや、彼の奥さんのお墓があることさえも。
「彼、今でも引きずってるみたい。忘れられないのね・・・きっと。」
「だから、私を受け入れることは出来ない。彼は言わなかったけど、たぶん、そういうことなのよ・・・」
言いながら彼女は寂しそうに目を伏せた。
彼女の思わぬ告白に、Miaは衝撃を受けていた。
あんなおっさんのどこにそんな魅力があるのだろうか?
それと同時に、マリア・エレーナの趣味ってちょっと変わってるなって、思った。
失礼だからそんなこと口が裂けても言えないが。
「・・・マリア・エレーナ、おっさんのどこが良いの?私にはサッパリなんだけど」
「そうね・・・」
マリア・エレーナはおっさんの事を考えてみた。
どこに惹かれたのか想いだそうとする。
「どこか悲しそうというか、寂しそうな所とか・・・かな?」
「あとは、普段とのギャップかしら。強面なのに、可愛いのよ」
彼女はうふふと笑った。
想いだしている時の彼女は、とても幸せそうに見えた。
その表情を見た時、マリア・エレーナは本当に彼のことが好きなんだな、とMiaは思った。
「ふ、ふ~ん・・・」
Miaは同意は出来ないが、とりあえず頷いておいた。
おっさんの魅力は自分にはサッパリわからないので、触れるのはこれ以上やめておこうと思った。
「Miaにはそういう人はいないの?」
「うん?ああ、いるには、いるけど・・・」
「どういう人?」
「う~ん・・・・」
Miaは大好きなHassildar伯爵のことを考えてみた。
自分が気に入ってる点をひとつずつあげてみる。
「渋くて、格好良くて、普段はちょっと怖いんだけど、本当はいい人でとっても優しいの。落ち着いた大人の男性って感じかな」
マリア・エレーナはそれを聞いて、あれ?と思った。
そんな風な男性が身近にいたような気がする。
というか、1人しか思いつかなかった。
「・・・それって・・・、Azazelのこと?」
「ぶっ」
思わず吹き出すMia。
その後、勢いよく席から立ち上がり、身を乗り出しながら大声で反論した。

「あんなおっさんと一緒にしないでよ!全然違うから!!」
「Hassildar伯爵のことだよ?!伯爵の方が数倍も渋くて格好良いんだから!」
「あら、そうなの?」
彼女は伯爵の顔を知らないので、Miaの話にはピンとこなかったようだ。
マリア・エレーナは彼女のあまりの剣幕に押されてちょっとたじろいでしまった。
Miaは本気で伯爵に思いを寄せているようだ。

「ごめんなさい、あなたの話を聞いてると、どうしても彼のことしか思い浮かばなくて」
申し訳なさそうにマリア・エレーナはあやまった。
「いや、私の方こそごめんね。ちょっと興奮しちゃった・・・」
Miaは落ち着きを取り戻すと、席に座りなおした。
まだ完全におっさんに対しての怒りが収まったわけではないので、その辺で過敏になっているようだ。
「伯爵はおっさんみたいに馬ヅラじゃないわよ。もっといい男なの」
「馬ヅラ・・・(笑)」
マリア・エレーナはツボに入ったのか、声をあげて笑っていた。
おかしくてたまらない。
「そうね、確かに馬面よね。あんなニヒルな馬がいたら凄いけど」
「ちょっとやめてよ。馬の顔見れなくなっちゃうじゃん」
二人は笑った。
Miaはマリア・エレーナのサンドイッチを食べながら、絶え間なく話し続けた。
おっさんと喧嘩したことが遠いことのように思え、記憶がじょじょに薄れ始める。
彼女は完全にそのことを忘れ、楽しいお喋りをしたことだけが脳裏に残った。
そして、マリア・エレーナが用意してくれた部屋で眠りにつくことにした。

ベッドに横になり、眠ろうと集中している時、ふと、おっさんと喧嘩したことを想いだしてしまった。

(明日、あやまろう・・・)
自分の課題として明日やらねばならぬリストの最初にこの項目を置いた。
-つづく-
Miaはimperial cityのマリア・エレーナの店を訪れていた。

ちらほらと酒を飲んでいる客がいるくらいで、店内は普段よりガランとしていた。
雨の中を歩いてきたせいでマントや鎧からは水が滴り落ちていたが、彼女は気にも留めずにそのまま席に座った。
暗い顔で俯いているその姿は、まるでその場に幽霊が佇んでるかのように周りの客の目には映ったかもしれない。
「いらっしゃい」

マリア・エレーナが水を運んできた。
すぐMiaの異変に気がつき、心配そうに声をかける。
「・・・大丈夫?」
Miaがゆっくりと顔を上げた。
その瞳は潤んでいた。
本人は我慢しているようだが、今にも溢れ出しそうなくらい涙がたまっていた。
すがるような目付きでマリア・エレーナを見つめている。
そして、ゴシゴシと目元をこすると、ちょっと笑いながら口を開いた。
「・・・えへへ、ちょっと色々とね。大丈夫だよ、大したこと無いから」
Miaは無理に笑ったので、きっと変な顔をしていただろう。
それでも、マリア・エレーナには心配をかけたくないので、悟られないようにごまかしたのだ。
彼女は務めていつもと同じように注文した。
「えっとね、リキュールとチーズにしようかな。あと、サラダも」
「わかったわ」
マリア・エレーナにはMiaが虚勢を張って無理に笑顔を作っていることが手に取るようにわかっていた。
こんなに落ち込んでいる彼女も珍しい。
彼女の身に起こった事を考えながらも、とりあえず注文の品物を取りに行った。

マリア・エレーナは他の客を捌きながら、Miaの様子を逐一伺っていた。
彼女はずっとグラスを持ったまま、一点を見続けている。

丁度、彼女の席はランプの影になっているので表情まではわからない。
が、いつもと空気感が違うことだけは確かだ。
* * * * * * * * *
他の客が皆帰ってしまい、店仕舞いの時間になっても、Miaはずっとそこにいた。
食べ物には一切手をつけず、リキュールも大して減っていない。
ずっと彼女は何かに憑かれたように宙を凝視し、呼吸すらしてないように見えた。
店主がマリア・エレーナに後の事を任せて自宅へ戻った。
ようやく自由になった彼女は、静かにMiaに近づく。
「閉店よ。帰らなくてもいいの・・・?」
Miaがゆっくりとこちらを向いた。
周りに誰もいないことや、彼女達が片づけをしていたことには全く気付いてなかったようだ。
「・・・今日は、ここに泊まらせてもらってもいいかな・・・?」
「ええ、いいわよ。一部屋空いてるからそこを使うといいわ」
Miaはずっと持っていたグラスをようやくテーブルの上に置いた。
握力がおかしくなってるようだった。
手が痛くて、指がうまく曲がらない。
「・・・ありがとう・・・」
立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。
足だけでなく、全身に力が入らなかった。
「・・・あれ、立てない・・・、そんなに飲んだのかなぁ・・・」
その様子を見て、いたたまれなくなったマリア・エレーナが静かに口を開いた。
「何があったの・・・?」
「え?別に、なにも・・・」
Miaは言葉を濁した。
「隠さなくてもいいわ。辛いことがあるなら、誰かに話した方が気が楽になるわよ?」
「今、部屋の用意をしてきてあげるから、少し待っててね」
マリア・エレーナはテーブルの上の物を片付けながら、彼女にそう言った。
カウンターに向かって歩き出すと、後ろから声がかかった。
「待って、マリア・エレーナ・・・・」
Miaは彼女を呼び止めた。
そして、話し辛そうにゆっくりと、落ち込んだ口調で彼女に今日あったことを話した。
マリア・エレーナは椅子をMiaの近くに寄せ、そこへ座って話を静かに聴いてくれた。

「・・・おっさんなんか大嫌い・・・」
最後にそう言うと、Miaはまた黙りこんでしまった。
マリア・エレーナは相槌を打ちながら彼女の様子をずっと観察していた。
刺激しないように、優しく、そっと、彼女に語り掛ける。
「・・・そうね、あの人はあなたの言う通り、他人に対して厳しい所があるのよね・・・。
そして、同じように、いえ、きっとそれ以上に自分にも厳しいの・・・」
マリア・エレーナはAzazelのことをよく知っていた。
彼の欠点のこともよく知っているのだ。
「彼が特にあなたに対して厳しいというのは、間違いじゃないと思う。どうしてそうなのかしら?」
「わからない・・・」
「・・・私のことが嫌いだから?ウザイのかな・・・?」
マリア・エレーナは首を横に振った。
「むしろ好きだと思う」
今の言葉にMiaは目を丸くした。
ありえないこと過ぎて、思わず笑いが込み上げる。
「ないない、ないって。そんなわけないじゃん。だって、あんなにキッツいことばかり言うんだよ?
ありえないって」
「嫌いなあなたを居候させるの?矛盾してない?」
「それはただ、私のことを哀れだと思って、そうしてくれただけよ。」
「本当にそれだけ?」
「・・・そうなんじゃないの・・・?わからないよ、彼に聞いたことないし・・・」
彼の真意はわからない。
よく考えると、無茶な願いをよく承知してくれたなと、今になって思う。
Miaの頭は混乱してきていた。

「彼はね、興味の無い人には厳しいことを言ったりしないのよ。だから、私にはいつも優しかった」
Miaが驚いたように彼女を見つめた。
マリア・エレーナはちょっとせつなそうに微笑んでいる。
「Miaに厳しいのは、悪意があるわけじゃなくて、もっとあなたを成長させたいと思ってるからなのよ・・・」
「言われてる本人は、そんなことわからないものね。どうせなら、もっと優しい言葉で言ってくれてもいいのにって思うのが普通よ」
Miaはうんうんと頷いている。
「そこが彼の子供っぽい部分ね。」
「あの人、年を重ねてはいるけど、そういう所はどうにもならないようよ。自覚はしているみたい。
だから、あれはもう仕様が無いことだと思ってあきらめるか、無視するしかないのよ。」
「もしくは傷つく度に、その都度、彼に意思表示することね」
マリア・エレーナはMiaの手に、そっと手のひらを重ねた。
「あなたは自分の過ちをわかっている。だからもう、あなたはその過ちを二度と繰り返さない。
でしょ?」
「ええ」
「なら、そのことをちゃんと彼に伝えましょう。そして、あなたが感じた不快感を彼にしっかり伝えなさい。」
「一応あの人も大人だから、冷静に話せばわかってくれるはずよ」
Miaはちょっと苦笑した。
マリア・エレーナがおっさんのことを”一応大人だから”と言ったことがおかしかったのだ。
彼のことをこんな風に語る人を見るのはとても新鮮だった。
こんな風に、対等に彼のことを話せるということは、余程親しい間柄なのだろう。
彼との関係をちょっと聞きたい気もするけど、今はやめておこう、と思った。

「・・・Miaは、彼の娘さんの話を聞いたことがある・・・?」
「あるよ。駆け落ちして行方不明で、一生懸命探してるって・・・」
「たぶん、それも関係してるんじゃないかしら」
「どういうこと?」
「Miaが自分の娘と重なって見えてるのかも」
「えっ」
Miaは驚いていた。
そんなことがありえるのだろうか?
「確か、あなたより年上の筈だけど・・・」
マリア・エレーナは昔Azazelから聞いた話を思い出そうとしていた。
「活発で、自由奔放な娘さんだったそうよ。ただ、彼の言うことはあまり聞かなかったようだけど。
だから彼は彼女に厳しく接していたみたい。それが仇となって、父娘の関係がこじれて・・・・こんなことに・・・。
とても愛していたから、その時のショックは言葉で言い表せないって言ってたわ。
そして・・・・
とても後悔しているとも・・・」
マリア・エレーナは言葉を区切った。
Miaがいてもたってもいられなくなり、口を開く。
「だったら、なおさら私に対して厳しい言葉をかけるのは逆効果だと思わないのかしら??」
「だから、そこが彼の欠点なのよ。わかっていても、どうすることもできないのよ。
同じ過ちを繰り返すかもしれないのに、彼にはどうしていいのか方法がわからない」
「・・・・」
Miaはなんとなくわかったような気がした。
Azazelはとてつもなく不器用なのだ。
おそらく、今頃彼は自分がMiaに対してついた態度を後悔していることだろう。
もっと違う言い方で話せば良かったと、思っているに違いない。
そして、家に帰ってこない彼女を心配している筈だ。
そう考えると、Miaはちょっと彼を許す気になれた。
元々は自分の単独行動が招いたことだ。
本当は逆切れなんてしたくなかった。
ただ、いつも思うのだが、おっさんが相手だと、どうにも自分に甘くなってしまい、制御が取れなくなってしまうのだ。
自分は彼に頼っているのだなということを、後になって思い知らされる。痛いほどに。
「・・・ありがとうマリア・エレーナ、もう、大丈夫よ・・・」
Miaの気持ちに整理がついた。
今まで暗く淀んだ闇のようなものしか周りには見えなかったが、今は視界もよくなり、いつもと同じ景色が見えるようになった。
彼女の顔に生気が戻ってきた。
「良かった」
マリア・エレーナにもそれがわかり、安堵しながら微笑んでいた。
Miaはちょっとはにかみながら、彼女の手を握り、握手するように軽く上下させた。
「本当にありがとう」
「力になれて良かったわ。」
「お腹空かない?あなた何も食べてないでしょ?」
そう言って彼女は席を立った。
カウンターに向かって歩いて行くので、Miaもそれについていった。

残り物を探しているマリア・エレーナを眺めながら、Miaはカウンター席に座った。
「さっきのチーズでいいよ。そんなにお腹空いてないし」
「じゃあ、サンドイッチ作ってあげるわ。ちょっと待ってね」
マリア・エレーナはいつも甲斐甲斐しく彼女の面倒を見てくれる。
Miaはその厚意にいつも甘えていた。
甘えてもいい自分が、ちょっと嬉しかった。
料理を作ってもらってる最中、Miaはポロっと思っていたことを口に出してしまった。
「・・・・マリア・エレーナは、おっさんのことに詳しいよね。そんなに仲良いの?」
「付き合いが長いからよ」
「おっさんもそんな風なこと言ってたなぁ・・・・」
マリア・エレーナはバケットを同じ厚さに切っている所だった。
「・・・・本当は、それだけじゃないって言いたい所だけど・・・・」
意味ありげにそう言った。
Miaがその言葉の意味を考えていると、彼女はバケットを切る手を止め、顔を上げた。

「あの人の中に、私の居場所はなかったの」
Miaがまたまた驚いたようにマリア・エレーナを見つめた。
彼女のおっさんに対する言動には、さっきから驚かされてばかりだ。
「ふふっ、驚いた?・・・そう、Miaが思ってる通りよ」
「えっ、そうなの!?本当に!?」
信じられなかった。
こんなに綺麗で誰からも愛される女性が、まさかあの偏屈で人相の悪いおっさんに思いを寄せていたとは。
もっといい男がよりどりみどりでいた筈なのに、どうして、よりによってあんなおっさんを選んでしまったのだろう。
Miaにはさっぱりわからなかった。
「やだ、そんなに驚かないでよ。結構いい人なのよ?」
「ううん、私の前ではそうだっただけなのかも。だってあの人、結局私には心を開いてくれなかったものね・・・」
「付き合ってたの?」
マリア・エレーナは首を横に振って否定した。
「・・・肌を合わせたことは何度かあったけど、結局それだけだった。引き止めようとしたけど、無理だったわ」
「・・・・どうして・・・?こんなに美人で素敵なのに、なんでおっさんは??」
なんと、おっさんはこんなに美しい女性を振っていたらしい。
まったくもって、信じられないことをする男だ。
「Miaは知ってる?あの人、毎月同じ日にある場所へ必ず赴いてるの。そう、亡くなった奥さんのお墓へ・・・」
Miaは知らなかった。
彼の行動など気に留めたことも無いので、何をしているかなど知る筈もないのだ。
ましてや、彼の奥さんのお墓があることさえも。
「彼、今でも引きずってるみたい。忘れられないのね・・・きっと。」
「だから、私を受け入れることは出来ない。彼は言わなかったけど、たぶん、そういうことなのよ・・・」
言いながら彼女は寂しそうに目を伏せた。
彼女の思わぬ告白に、Miaは衝撃を受けていた。
あんなおっさんのどこにそんな魅力があるのだろうか?
それと同時に、マリア・エレーナの趣味ってちょっと変わってるなって、思った。
失礼だからそんなこと口が裂けても言えないが。
「・・・マリア・エレーナ、おっさんのどこが良いの?私にはサッパリなんだけど」
「そうね・・・」
マリア・エレーナはおっさんの事を考えてみた。
どこに惹かれたのか想いだそうとする。
「どこか悲しそうというか、寂しそうな所とか・・・かな?」
「あとは、普段とのギャップかしら。強面なのに、可愛いのよ」
彼女はうふふと笑った。
想いだしている時の彼女は、とても幸せそうに見えた。
その表情を見た時、マリア・エレーナは本当に彼のことが好きなんだな、とMiaは思った。
「ふ、ふ~ん・・・」
Miaは同意は出来ないが、とりあえず頷いておいた。
おっさんの魅力は自分にはサッパリわからないので、触れるのはこれ以上やめておこうと思った。
「Miaにはそういう人はいないの?」
「うん?ああ、いるには、いるけど・・・」
「どういう人?」
「う~ん・・・・」
Miaは大好きなHassildar伯爵のことを考えてみた。
自分が気に入ってる点をひとつずつあげてみる。
「渋くて、格好良くて、普段はちょっと怖いんだけど、本当はいい人でとっても優しいの。落ち着いた大人の男性って感じかな」
マリア・エレーナはそれを聞いて、あれ?と思った。
そんな風な男性が身近にいたような気がする。
というか、1人しか思いつかなかった。
「・・・それって・・・、Azazelのこと?」
「ぶっ」
思わず吹き出すMia。
その後、勢いよく席から立ち上がり、身を乗り出しながら大声で反論した。

「あんなおっさんと一緒にしないでよ!全然違うから!!」
「Hassildar伯爵のことだよ?!伯爵の方が数倍も渋くて格好良いんだから!」
「あら、そうなの?」
彼女は伯爵の顔を知らないので、Miaの話にはピンとこなかったようだ。
マリア・エレーナは彼女のあまりの剣幕に押されてちょっとたじろいでしまった。
Miaは本気で伯爵に思いを寄せているようだ。

「ごめんなさい、あなたの話を聞いてると、どうしても彼のことしか思い浮かばなくて」
申し訳なさそうにマリア・エレーナはあやまった。
「いや、私の方こそごめんね。ちょっと興奮しちゃった・・・」
Miaは落ち着きを取り戻すと、席に座りなおした。
まだ完全におっさんに対しての怒りが収まったわけではないので、その辺で過敏になっているようだ。
「伯爵はおっさんみたいに馬ヅラじゃないわよ。もっといい男なの」
「馬ヅラ・・・(笑)」
マリア・エレーナはツボに入ったのか、声をあげて笑っていた。
おかしくてたまらない。
「そうね、確かに馬面よね。あんなニヒルな馬がいたら凄いけど」
「ちょっとやめてよ。馬の顔見れなくなっちゃうじゃん」
二人は笑った。
Miaはマリア・エレーナのサンドイッチを食べながら、絶え間なく話し続けた。
おっさんと喧嘩したことが遠いことのように思え、記憶がじょじょに薄れ始める。
彼女は完全にそのことを忘れ、楽しいお喋りをしたことだけが脳裏に残った。
そして、マリア・エレーナが用意してくれた部屋で眠りにつくことにした。

ベッドに横になり、眠ろうと集中している時、ふと、おっさんと喧嘩したことを想いだしてしまった。

(明日、あやまろう・・・)
自分の課題として明日やらねばならぬリストの最初にこの項目を置いた。
-つづく-