ゆるゆるOblivion
Oblivion妄想RP日記です。渋親父率高いので、加齢臭漂ってます
英雄の条件~第11話
○英雄(ヒーロー)の条件○
第11話<最終話>
親父さんが中で店仕舞いの準備をしている頃、Richardは店先を箒で掃いていた。

夜の帳が下りてくると、今日という日を無事に終えられて良かったなと最近感じるようになった。
充実した毎日を過ごせることに彼は感謝していた。

街灯の灯火がふと陰ると帽子を被った男性らしき人影が目の前に現れた。

暗くて顔がよく見えず誰だろうと伺っていると、向こうから声をかけてきた。
「御無沙汰しております。相変わらず無茶をなさっている御様子ですな」
「?」
何を言われたのかよくわからなかった。
「突発的なあなたの行動を王は良く思わないのでは?Edward(エドワード)殿下」
「・・・失礼ですがどなたかとお間違えでは?僕はRichardといいます。ああ、店ならもう閉店してしまいましたよ」
「あなたに用があって来たのです、Edward殿下」
暗がりから一歩踏み出した声の主の顔が灯りに照らし出された。
Richardはその顔を見て、あっ!と声を上げてしまった。
「まさかっ、Azazelさん!?」
彼は酷く驚いていた。
「信じられません、死んだと聞いていたので・・・・まさかこんな異国であなたに会えるとは・・・」
「奥様が亡くなられた後、あなたが後を追ったという噂が飛び交ってましたので、てっきり・・・」
「あながち間違った情報とも言えませんな」
「・・・奥様のことはとても残念に思います。ですが、あなたの顔を再び見れて僕は少し安心しました。」
Richardはおっさんの顔を懐かしむようにしみじみと眺めていた。
「お変わりありませんね。最後に会ったのはかれこれもう十年以上前ですか。・・・相変わらずお若い。
いや、でも・・・随分といかめしくなられたような気もします・・・」

おっさんの眉間に深く刻み込まれた皺を見つけて彼はそう言った。
自分の記憶の中にあるAzazelという人物には、今みたいに重苦しい何かを背負っているような雰囲気はなかった。
明るい人間ではなかったが、少なくとも暗くはなかった。
そしてもっと他人を吸い寄せる魅力と包容力を持っていた。
今目の前にいる彼は刺々しくも近寄りがたい空気を全身にまとっており、気軽に声を掛けるなんてとてもじゃないができない様子だ。

「いらぬ苦労だけはしております」
色々と昔話をしたそうにしているRichardをよそに、彼は自分の用件を先に出した。
「殿下、あなたとの再会を手を取り合って喜びに来たわけではないのです。」

彼はMiaから借りてきた剣をRichardに突き出すように見せ付けた。
「この剣の説明を願いましょう」
「その前に、ひとついいですか?」

そう言うと彼は辺りに聞こえないよう声を潜めた。
「この国で僕のことを”殿下”と呼ぶのはやめて下さい。僕の身分は絶対に隠し通して欲しいのです。
バレるようなことがあったら、僕はあなたに何をするかわかりませんよ」
その言葉を告げる時、彼の顔は普段の甘ったれた職人の弟子Richardではなく、
将来一国を引き継ぐであろうエルフ達が治める国の王子Edwardへと変貌した。
目の奥に鋭い突き刺すような殺気が一瞬含まれ、彼は自分の本気さをAzazelに知らしめようとしていた。
「脅さなくとも、何も言うつもりはありません」
「そしてその敬語もやめていただきたい。職人の弟子に敬語を使う目上の人間を見たら周りの人達はなんと思うでしょう?
誤解を与えるような真似は一切やめて欲しいのです」
「・・・わかりました。気をつけま・・・気をつけよう」
「では気を取り直して、もう一度用件を伺いましょう」
おっさんはもう一度Miaから借りてきた剣を見せた。
Richardはあれ?と首を傾げた。
「何故あなたがそれを?それはMiaさんに差し上げた物なのですが・・・」
「彼女は我が家に居候の身だ」
「英雄と謳われてる方なのに、居候なんですか?立派なお屋敷に住んでいてもよさそうなのに」
「Miaのことはどうでもいい。この剣だ。どうしてこの剣を彼女に易々とあげたのだ?
時期王となる身分の者にしてはいささか軽率過ぎやしないか」
ギロッとRichardがおっさんを睨み付けた。
彼の身分に関する単語は厳禁だと申し付けられた直後なのに、つい口が滑ってしまった。
「・・・ああ、失礼した。うーん・・・、どうも話し辛いな・・・」
おっさんは旗色が悪そうに唸っていた。
「慣れれば気にもならなくなりますよ。」
「その剣は将来僕が所有する物だということは御存知ですよね。王位継承者にのみ使用することを許される最強の剣”Anduril”(アンドゥリル)。
といっても、最後に使われたのはもう数百年も昔のことです。今では力を誇示するだけのただの象徴に成り下がってしまいました・・・」
彼は悲しそうに目を伏せた。
「・・・本来の力を発揮できないまま永劫の時が流れて行く・・・、僕にはそれが耐えられないのです。
伝説の剣だろうが、なんだろうが、僕はこの剣は使われるべきだと思います。
壊れて傷ついても、自分の役割を果たせられれば本望な筈。本来剣とはそうあるべき物だとは思いませんか?」
「今はまだあなたの物じゃないだろう。国の者達が血眼になって探しているのでは?」
「僕がここにいることを知らないとは思いません。時が来るまでの間、束の間の自由を与えてくれているだけでしょう。
剣のことは・・・・薄々感づいているかもしれませんね」
彼は子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
「使われる物ならば、せめてそれに見合った方に使っていただきたい。僕が選んだ方がたまたまMiaさんだったというわけです」
「彼女にこそ相応しいと?」
「そうです」
「・・・僕に見る目がないと、仰りたいようですね」
多少不機嫌そうにRichardはAzazelを見やった。
「そうは言っていない。ただ、安直だと言っただけだ。
彼女は確かに世間一般では英雄と騒がれてはいるが、自分の身丈以上のことを抱え込み、
結局何も出来ずに放棄するような人間だ。
そんな奴にこの大事な剣を託すことが果たして正しいのだろうか?
・・・私はそうは思わない。
この剣はしかるべき場所に置いておくべき物であり、その血筋を引き継ぐ者のみが継承していくべき物なのだ。」
眉間に皺を寄せながら力説しているおっさんを見つめながらRichardは苦笑していた。

「自国の事に口出しされても困ります」
「確かに私が首を突っ込むような話ではないが・・・」
「Miaさんだからですね」
口を開こうとしたおっさんが言葉を飲み込んだ。
見事に的を射られたからだ。
「御一緒に住んでいるということは、かなり親しい間柄とお見受けしますが・・・」
「ただの仕事仲間だ」
おっさんは釘を刺した。
しかしRichardはその言葉を軽く聞き流し話し続けた。
「常に近い立場にいるとなると、見える風景が僕達とはきっと違うのでしょうね。
彼女はあなたが思っているような人ではありませんよ。
少し離れて客観的に御覧になられてはいかがですか?
ああ、違いますね、本当はわかってるんだ・・・・」
彼はおっさんの微妙な表情の動きを読み取り、その真意に気付いた。
ふふっと笑うRichardを見て、どうして彼が急に笑ったのか、その意味をおっさんは考えていた。
「何をためらっているんです?彼女を認めることで、あなたの中で何かが変わってしまうとでも?」
「・・・認めてはいるさ。だが・・・」
おっさんは言葉を紡ぎ出そうとしてためらった。

ふと、様々な場面で彼女が嬉しそうに自分に微笑む姿がフラッシュバックするかのように脳裏をよぎる。

ただただ邪魔で、うっとうしいだけの存在だった筈なのに、いつの頃からかこの笑顔を見るとふわっと心の中が暖かくなるようになった。
それは子供や犬猫の類に対して持つ感情にとてもよく似ている。

そこまでは許容範囲だ。
そこまでは自分でも許せるのだ。
しかし、認めることで彼女に対して気を許してしまった瞬間にポーンと大きくその先へと足を踏み出してしまうような予感がするのだ。
自分自身が変わってしまうような、そんな気がして恐ろしかった。

自制心が利くのは彼女との間に壁を作っているからであって、それを取り除くことは決してできない。
そう自分自身に言い聞かせていた。
そしてこのことは誰にも悟らせてはいけないと、己を律していた。

「・・・いや、いい。」
うまく言葉に出来そうにない。
何を言っても誤解を生み出すだけだろうと判断し、彼は諦めたのか大きく息をついた。
「あなたの言うとおりだ。素直に彼女を認めることにしよう」
「では、その剣は彼女の物です。ちゃんと返してあげて下さいね。」
「それを快く思わない連中が訪ねてきた時はどうする」
「その時は僕がそれ以上の剣を作るからと説得しますよ。」

彼は「ははは」と笑いながら軒先の壁へと寄りかかった。
「・・・・こんな風にあなたとまた話が出来て嬉しいなぁ・・・」
Richardはしみじみと喜びを噛み締めていた。
「僕が鍛冶職人になろうなんて現実離れした夢を抱いたのは、あなたのせいなんですよ」
「私の?」
おっさんは意表をつかれたように聞き返した。
「あなたに錬金術のあれこれを教わる内に物造りの素晴らしさに目覚めてしまい、
気がついたらドワーフ以上の鉄鋼技術を習得することが僕の目標になってました。」
彼の父王が治めるエルフの国はAzazelが以前住んでいた故郷の隣国に位置し、
お互いの国の繁栄のために技術の提供をしに知識人同士が往来することが度々あった。
Richardはそういった機会に立ち会うことを繰り返していく内に、
当時、錬金術師として名を上げていたおっさんの腕を間近で見ることが出来たのだ。
その印象が今でも色濃く記憶に残っており、あこがれにも似た感情を彼に抱いていた。
「今回の自殺説もそうですが、当時からあなたに纏わる噂には様々なものがありますよね」
「何ひとつ耳に入ってこないが」
「あなたが無頓着だからですよ。周辺諸国には結構伝わってきてるんですよ。例えば、そうですね・・・」
彼はおっさんに関する情報について記憶の糸を辿ってみた。
「”実験室を訪ねたら、まるで怪物のような姿のあなたがぶつぶつ呪文を唱えており、部屋中の物が勝手に飛び回っていた”とか、
”月の綺麗な晩には、あなたの背中に羽が生え、美しい女性を抱えて上空散歩をしている”とか、
”実は恐ろしく巨体で、7つの蛇の頭と14の顔に12枚の翼が生えている”とか・・・。」

今思い出せる範囲で噂を数個上げてみた。
まだまだあるのだが、とりあえずの例としてはこれで十分だろう。

「ね、面白いでしょ?」
「完全に人ではなさそうだな」
「それだけあなたの能力が人間離れしていたということです。
伝染病の治療薬をお独りで開発され、大勢の人たちの命を救ったのですから、当然といえば当然です。
御存知ないと思いますが、あなたの国では伝説的な人物として扱われてるようですよ」
「・・・・。
・・・・・・大勢の人間を救えてもな・・・・・・」

彼の眉間の皺が一層深く刻み込まれた。
隠すことがままならぬほどの苦悶の表情を浮かべると、それを悟られまいと目元を手で覆い隠してしまった。
その仕草を見てRichardは彼の触れてはいけない部分に不用意に近付いてしまったと感じ、申し訳なさそうに頭を下げた。
「・・・すいません、そうでした、奥様は・・・・」
「いや、すまない。気にしないでくれ。」
Richardはおっさんの様子からして、これ以上会話を続けることは困難だろうと思い、そろそろ話を切り上げることにした。
「もし宜しければ、今度御一緒に食事でもどうですか?積もる話もありますし」
「そうだな」
「約束ですよ」
別れの挨拶を交わしながらRichardはおっさんの体に腕を回し抱きつくと、左右の頬を触れ合わせた後、身を後ろに引いた。
彼らの国の一般的な挨拶様式のひとつだ。
「では、失礼」

おっさんは帽子のツバを指で軽く挟んで会釈すると立ち去っていった。
その後姿を感慨深そうに見つめていると、店の中から自分を呼ぶ声が聞こえた。
Richardは返事をすると、箒を持って店の中へと戻ることにした。
--------------------------------------------------------------
「おかえりー」

夕食までの空いた時間を植物の世話に費やしていたMiaは、おっさんから事の顛末を聞きたくて、
帰宅した彼の元へと小走りに近付いた。
「どうだった?」
「私の勘違いだった。」
彼は剣をMiaに差し出した。
「これは君の剣だ。大事にしろ」
「もちろんよ」
彼女の輝きを放つ瞳からは意志の強さが伺えた。
Richardの言うとおり、彼女に託せばこの剣も本来の力を取り戻せるかもしれない。
そんな期待を相手に沸き立たせるような、なんともいえない良い表情を彼女はしていた。
おっさんは小さく頷くと、納得したように剣を手渡した。
「そっか、あなたの知り合いが持っていた剣じゃなかったんだ。
おかしなことにならなくて良かったわね」
「・・・そうだな」
Miaは貰った剣を大事そうに抱えると、自室の剣掛台に立てかけた。
そしてすぐに戻ってきた。
今回の件でちょっとした心配事があったので、すぐにでも聞き出したかったからだ。
「あ、ねえ、おっさん」
「うん?」
「Mia、ちょっと手伝ってくれ」
いい所へ来たとばかりに彼女に着替えの手伝いをさせる。

Miaは彼の背中へ回ると、鎧の止め具を外し始めた。
「・・・剣のことを聞く時、Richardにキツイ事言ったりしなかった?」
「言うわけないだろ」
「だって、あなたの言動は基本的にきっついのよ?彼、見た目通りに気が弱いから、あなたにちょっと言われただけで泣いちゃうかも」
「泣いてるようには見えなかったがな」
「ならいいけど・・・」
胸部の鎧を脱ぎ終えると彼は礼を言った。
他の部分はひとりでも取りはずすことが出来るので、もう手伝ってもらう必要はない。
Miaは着替えをしている彼を眺めながらグチをこぼし始めた。

「・・・この間ね、chevに言われたの。私の言い方があなたに似てきてるって。」
「酷いと思わない?」
「私のせいじゃないぞ」
「あなたのせいよ。」
「一緒にいる時間が長いとその人に似てくるんだってさ。
よりによって、一番似たくない部分が似ちゃうなんて・・・。もう、最悪」
彼女は はぁ~・・・と、ため息をついた。
自分でもショックなのだ。
「似たくないなら、他の人間ともっと長く一緒にいればいいだろ?」
「他の人の家にも居候しろってこと?ここだけで十分だわ」
「・・・おっさんはどう?私に似たりしてない?」
「特に影響は受けてないが。」
彼は脱ぎ終えた鎧を箱にしまうと普段着に着替えた。
「じゃあさ、似るとしたらどこが似ると思う?私のどんな所が伝染っちゃうかな??」
おっさんは首を捻りながら考えてみた。
似るとしたらMiaの特徴的な部分だろう。
彼女の個性を一通り分析してみた結果、こんな答えが出た。
「・・・天然ボケになるんじゃないか?」
「あなたがボケたら、普通にボケ老人よね」
「・・・シャレにならんぞ・・・」

おっさんは心が折れたのか、ガックリと肩を落とした。
-終わり-
+++++++++++++++++++++++++
ちょっと最後が長かったですが、やっとこの話も終わりました。
次はクリスマスにちなんだ短くてちょっぴりエッチ(?)なお話にしようかと思ってます。
おっさんの名前はお察しの通り悪魔Azazelからきてるわけですが、噂話の一つは調べて出てきたサイトに乗っていた説明文のひとつです。
名前つながりで、Azazelといえば私の中では「X-MEN ファースト・ジェネレーション」なので、おっさんも赤くしちまおうか、などとたまに思います(笑)
凄く格好良いんですよ~。
ちなみにおっさん自身にモデルはいません。
色んな悪役をやる俳優さん達の顔を寄せ集めたような感じで作りました(どんだけ悪役好きなんだってね・・・)
ウィレム・デフォーやヴァンサン・カッセルあたりのちょっと変わった顔系を意識しております。
第11話<最終話>
親父さんが中で店仕舞いの準備をしている頃、Richardは店先を箒で掃いていた。

夜の帳が下りてくると、今日という日を無事に終えられて良かったなと最近感じるようになった。
充実した毎日を過ごせることに彼は感謝していた。

街灯の灯火がふと陰ると帽子を被った男性らしき人影が目の前に現れた。

暗くて顔がよく見えず誰だろうと伺っていると、向こうから声をかけてきた。
「御無沙汰しております。相変わらず無茶をなさっている御様子ですな」
「?」
何を言われたのかよくわからなかった。
「突発的なあなたの行動を王は良く思わないのでは?Edward(エドワード)殿下」
「・・・失礼ですがどなたかとお間違えでは?僕はRichardといいます。ああ、店ならもう閉店してしまいましたよ」
「あなたに用があって来たのです、Edward殿下」
暗がりから一歩踏み出した声の主の顔が灯りに照らし出された。
Richardはその顔を見て、あっ!と声を上げてしまった。
「まさかっ、Azazelさん!?」
彼は酷く驚いていた。
「信じられません、死んだと聞いていたので・・・・まさかこんな異国であなたに会えるとは・・・」
「奥様が亡くなられた後、あなたが後を追ったという噂が飛び交ってましたので、てっきり・・・」
「あながち間違った情報とも言えませんな」
「・・・奥様のことはとても残念に思います。ですが、あなたの顔を再び見れて僕は少し安心しました。」
Richardはおっさんの顔を懐かしむようにしみじみと眺めていた。
「お変わりありませんね。最後に会ったのはかれこれもう十年以上前ですか。・・・相変わらずお若い。
いや、でも・・・随分といかめしくなられたような気もします・・・」

おっさんの眉間に深く刻み込まれた皺を見つけて彼はそう言った。
自分の記憶の中にあるAzazelという人物には、今みたいに重苦しい何かを背負っているような雰囲気はなかった。
明るい人間ではなかったが、少なくとも暗くはなかった。
そしてもっと他人を吸い寄せる魅力と包容力を持っていた。
今目の前にいる彼は刺々しくも近寄りがたい空気を全身にまとっており、気軽に声を掛けるなんてとてもじゃないができない様子だ。

「いらぬ苦労だけはしております」
色々と昔話をしたそうにしているRichardをよそに、彼は自分の用件を先に出した。
「殿下、あなたとの再会を手を取り合って喜びに来たわけではないのです。」

彼はMiaから借りてきた剣をRichardに突き出すように見せ付けた。
「この剣の説明を願いましょう」
「その前に、ひとついいですか?」

そう言うと彼は辺りに聞こえないよう声を潜めた。
「この国で僕のことを”殿下”と呼ぶのはやめて下さい。僕の身分は絶対に隠し通して欲しいのです。
バレるようなことがあったら、僕はあなたに何をするかわかりませんよ」
その言葉を告げる時、彼の顔は普段の甘ったれた職人の弟子Richardではなく、
将来一国を引き継ぐであろうエルフ達が治める国の王子Edwardへと変貌した。
目の奥に鋭い突き刺すような殺気が一瞬含まれ、彼は自分の本気さをAzazelに知らしめようとしていた。
「脅さなくとも、何も言うつもりはありません」
「そしてその敬語もやめていただきたい。職人の弟子に敬語を使う目上の人間を見たら周りの人達はなんと思うでしょう?
誤解を与えるような真似は一切やめて欲しいのです」
「・・・わかりました。気をつけま・・・気をつけよう」
「では気を取り直して、もう一度用件を伺いましょう」
おっさんはもう一度Miaから借りてきた剣を見せた。
Richardはあれ?と首を傾げた。
「何故あなたがそれを?それはMiaさんに差し上げた物なのですが・・・」
「彼女は我が家に居候の身だ」
「英雄と謳われてる方なのに、居候なんですか?立派なお屋敷に住んでいてもよさそうなのに」
「Miaのことはどうでもいい。この剣だ。どうしてこの剣を彼女に易々とあげたのだ?
時期王となる身分の者にしてはいささか軽率過ぎやしないか」
ギロッとRichardがおっさんを睨み付けた。
彼の身分に関する単語は厳禁だと申し付けられた直後なのに、つい口が滑ってしまった。
「・・・ああ、失礼した。うーん・・・、どうも話し辛いな・・・」
おっさんは旗色が悪そうに唸っていた。
「慣れれば気にもならなくなりますよ。」
「その剣は将来僕が所有する物だということは御存知ですよね。王位継承者にのみ使用することを許される最強の剣”Anduril”(アンドゥリル)。
といっても、最後に使われたのはもう数百年も昔のことです。今では力を誇示するだけのただの象徴に成り下がってしまいました・・・」
彼は悲しそうに目を伏せた。
「・・・本来の力を発揮できないまま永劫の時が流れて行く・・・、僕にはそれが耐えられないのです。
伝説の剣だろうが、なんだろうが、僕はこの剣は使われるべきだと思います。
壊れて傷ついても、自分の役割を果たせられれば本望な筈。本来剣とはそうあるべき物だとは思いませんか?」
「今はまだあなたの物じゃないだろう。国の者達が血眼になって探しているのでは?」
「僕がここにいることを知らないとは思いません。時が来るまでの間、束の間の自由を与えてくれているだけでしょう。
剣のことは・・・・薄々感づいているかもしれませんね」
彼は子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
「使われる物ならば、せめてそれに見合った方に使っていただきたい。僕が選んだ方がたまたまMiaさんだったというわけです」
「彼女にこそ相応しいと?」
「そうです」
「・・・僕に見る目がないと、仰りたいようですね」
多少不機嫌そうにRichardはAzazelを見やった。
「そうは言っていない。ただ、安直だと言っただけだ。
彼女は確かに世間一般では英雄と騒がれてはいるが、自分の身丈以上のことを抱え込み、
結局何も出来ずに放棄するような人間だ。
そんな奴にこの大事な剣を託すことが果たして正しいのだろうか?
・・・私はそうは思わない。
この剣はしかるべき場所に置いておくべき物であり、その血筋を引き継ぐ者のみが継承していくべき物なのだ。」
眉間に皺を寄せながら力説しているおっさんを見つめながらRichardは苦笑していた。

「自国の事に口出しされても困ります」
「確かに私が首を突っ込むような話ではないが・・・」
「Miaさんだからですね」
口を開こうとしたおっさんが言葉を飲み込んだ。
見事に的を射られたからだ。
「御一緒に住んでいるということは、かなり親しい間柄とお見受けしますが・・・」
「ただの仕事仲間だ」
おっさんは釘を刺した。
しかしRichardはその言葉を軽く聞き流し話し続けた。
「常に近い立場にいるとなると、見える風景が僕達とはきっと違うのでしょうね。
彼女はあなたが思っているような人ではありませんよ。
少し離れて客観的に御覧になられてはいかがですか?
ああ、違いますね、本当はわかってるんだ・・・・」
彼はおっさんの微妙な表情の動きを読み取り、その真意に気付いた。
ふふっと笑うRichardを見て、どうして彼が急に笑ったのか、その意味をおっさんは考えていた。
「何をためらっているんです?彼女を認めることで、あなたの中で何かが変わってしまうとでも?」
「・・・認めてはいるさ。だが・・・」
おっさんは言葉を紡ぎ出そうとしてためらった。

ふと、様々な場面で彼女が嬉しそうに自分に微笑む姿がフラッシュバックするかのように脳裏をよぎる。

ただただ邪魔で、うっとうしいだけの存在だった筈なのに、いつの頃からかこの笑顔を見るとふわっと心の中が暖かくなるようになった。
それは子供や犬猫の類に対して持つ感情にとてもよく似ている。

そこまでは許容範囲だ。
そこまでは自分でも許せるのだ。
しかし、認めることで彼女に対して気を許してしまった瞬間にポーンと大きくその先へと足を踏み出してしまうような予感がするのだ。
自分自身が変わってしまうような、そんな気がして恐ろしかった。

自制心が利くのは彼女との間に壁を作っているからであって、それを取り除くことは決してできない。
そう自分自身に言い聞かせていた。
そしてこのことは誰にも悟らせてはいけないと、己を律していた。

「・・・いや、いい。」
うまく言葉に出来そうにない。
何を言っても誤解を生み出すだけだろうと判断し、彼は諦めたのか大きく息をついた。
「あなたの言うとおりだ。素直に彼女を認めることにしよう」
「では、その剣は彼女の物です。ちゃんと返してあげて下さいね。」
「それを快く思わない連中が訪ねてきた時はどうする」
「その時は僕がそれ以上の剣を作るからと説得しますよ。」

彼は「ははは」と笑いながら軒先の壁へと寄りかかった。
「・・・・こんな風にあなたとまた話が出来て嬉しいなぁ・・・」
Richardはしみじみと喜びを噛み締めていた。
「僕が鍛冶職人になろうなんて現実離れした夢を抱いたのは、あなたのせいなんですよ」
「私の?」
おっさんは意表をつかれたように聞き返した。
「あなたに錬金術のあれこれを教わる内に物造りの素晴らしさに目覚めてしまい、
気がついたらドワーフ以上の鉄鋼技術を習得することが僕の目標になってました。」
彼の父王が治めるエルフの国はAzazelが以前住んでいた故郷の隣国に位置し、
お互いの国の繁栄のために技術の提供をしに知識人同士が往来することが度々あった。
Richardはそういった機会に立ち会うことを繰り返していく内に、
当時、錬金術師として名を上げていたおっさんの腕を間近で見ることが出来たのだ。
その印象が今でも色濃く記憶に残っており、あこがれにも似た感情を彼に抱いていた。
「今回の自殺説もそうですが、当時からあなたに纏わる噂には様々なものがありますよね」
「何ひとつ耳に入ってこないが」
「あなたが無頓着だからですよ。周辺諸国には結構伝わってきてるんですよ。例えば、そうですね・・・」
彼はおっさんに関する情報について記憶の糸を辿ってみた。
「”実験室を訪ねたら、まるで怪物のような姿のあなたがぶつぶつ呪文を唱えており、部屋中の物が勝手に飛び回っていた”とか、
”月の綺麗な晩には、あなたの背中に羽が生え、美しい女性を抱えて上空散歩をしている”とか、
”実は恐ろしく巨体で、7つの蛇の頭と14の顔に12枚の翼が生えている”とか・・・。」

今思い出せる範囲で噂を数個上げてみた。
まだまだあるのだが、とりあえずの例としてはこれで十分だろう。

「ね、面白いでしょ?」
「完全に人ではなさそうだな」
「それだけあなたの能力が人間離れしていたということです。
伝染病の治療薬をお独りで開発され、大勢の人たちの命を救ったのですから、当然といえば当然です。
御存知ないと思いますが、あなたの国では伝説的な人物として扱われてるようですよ」
「・・・・。
・・・・・・大勢の人間を救えてもな・・・・・・」

彼の眉間の皺が一層深く刻み込まれた。
隠すことがままならぬほどの苦悶の表情を浮かべると、それを悟られまいと目元を手で覆い隠してしまった。
その仕草を見てRichardは彼の触れてはいけない部分に不用意に近付いてしまったと感じ、申し訳なさそうに頭を下げた。
「・・・すいません、そうでした、奥様は・・・・」
「いや、すまない。気にしないでくれ。」
Richardはおっさんの様子からして、これ以上会話を続けることは困難だろうと思い、そろそろ話を切り上げることにした。
「もし宜しければ、今度御一緒に食事でもどうですか?積もる話もありますし」
「そうだな」
「約束ですよ」
別れの挨拶を交わしながらRichardはおっさんの体に腕を回し抱きつくと、左右の頬を触れ合わせた後、身を後ろに引いた。
彼らの国の一般的な挨拶様式のひとつだ。
「では、失礼」

おっさんは帽子のツバを指で軽く挟んで会釈すると立ち去っていった。
その後姿を感慨深そうに見つめていると、店の中から自分を呼ぶ声が聞こえた。
Richardは返事をすると、箒を持って店の中へと戻ることにした。
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「おかえりー」

夕食までの空いた時間を植物の世話に費やしていたMiaは、おっさんから事の顛末を聞きたくて、
帰宅した彼の元へと小走りに近付いた。
「どうだった?」
「私の勘違いだった。」
彼は剣をMiaに差し出した。
「これは君の剣だ。大事にしろ」
「もちろんよ」
彼女の輝きを放つ瞳からは意志の強さが伺えた。
Richardの言うとおり、彼女に託せばこの剣も本来の力を取り戻せるかもしれない。
そんな期待を相手に沸き立たせるような、なんともいえない良い表情を彼女はしていた。
おっさんは小さく頷くと、納得したように剣を手渡した。
「そっか、あなたの知り合いが持っていた剣じゃなかったんだ。
おかしなことにならなくて良かったわね」
「・・・そうだな」
Miaは貰った剣を大事そうに抱えると、自室の剣掛台に立てかけた。
そしてすぐに戻ってきた。
今回の件でちょっとした心配事があったので、すぐにでも聞き出したかったからだ。
「あ、ねえ、おっさん」
「うん?」
「Mia、ちょっと手伝ってくれ」
いい所へ来たとばかりに彼女に着替えの手伝いをさせる。

Miaは彼の背中へ回ると、鎧の止め具を外し始めた。
「・・・剣のことを聞く時、Richardにキツイ事言ったりしなかった?」
「言うわけないだろ」
「だって、あなたの言動は基本的にきっついのよ?彼、見た目通りに気が弱いから、あなたにちょっと言われただけで泣いちゃうかも」
「泣いてるようには見えなかったがな」
「ならいいけど・・・」
胸部の鎧を脱ぎ終えると彼は礼を言った。
他の部分はひとりでも取りはずすことが出来るので、もう手伝ってもらう必要はない。
Miaは着替えをしている彼を眺めながらグチをこぼし始めた。

「・・・この間ね、chevに言われたの。私の言い方があなたに似てきてるって。」
「酷いと思わない?」
「私のせいじゃないぞ」
「あなたのせいよ。」
「一緒にいる時間が長いとその人に似てくるんだってさ。
よりによって、一番似たくない部分が似ちゃうなんて・・・。もう、最悪」
彼女は はぁ~・・・と、ため息をついた。
自分でもショックなのだ。
「似たくないなら、他の人間ともっと長く一緒にいればいいだろ?」
「他の人の家にも居候しろってこと?ここだけで十分だわ」
「・・・おっさんはどう?私に似たりしてない?」
「特に影響は受けてないが。」
彼は脱ぎ終えた鎧を箱にしまうと普段着に着替えた。
「じゃあさ、似るとしたらどこが似ると思う?私のどんな所が伝染っちゃうかな??」
おっさんは首を捻りながら考えてみた。
似るとしたらMiaの特徴的な部分だろう。
彼女の個性を一通り分析してみた結果、こんな答えが出た。
「・・・天然ボケになるんじゃないか?」
「あなたがボケたら、普通にボケ老人よね」
「・・・シャレにならんぞ・・・」

おっさんは心が折れたのか、ガックリと肩を落とした。
-終わり-
+++++++++++++++++++++++++
ちょっと最後が長かったですが、やっとこの話も終わりました。
次はクリスマスにちなんだ短くてちょっぴりエッチ(?)なお話にしようかと思ってます。
おっさんの名前はお察しの通り悪魔Azazelからきてるわけですが、噂話の一つは調べて出てきたサイトに乗っていた説明文のひとつです。
名前つながりで、Azazelといえば私の中では「X-MEN ファースト・ジェネレーション」なので、おっさんも赤くしちまおうか、などとたまに思います(笑)
凄く格好良いんですよ~。
ちなみにおっさん自身にモデルはいません。
色んな悪役をやる俳優さん達の顔を寄せ集めたような感じで作りました(どんだけ悪役好きなんだってね・・・)
ウィレム・デフォーやヴァンサン・カッセルあたりのちょっと変わった顔系を意識しております。
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